銀の似合う人
聖堂の窓から光が差し込んでいた。白雪の陽はやわらかく、地に落ちた強すぎる白色を和らげるように映して銀色に揺れている。
アスレイドは机に書を広げ、しばらく手を止めて窓の外を見ていた。
「……銀というのは、少し冷たく見えるものだね」
ぽつりと呟いた声に、背後からリュエルの笑い声が重なった。
「ふふ。あなたらしくない言葉ね」
彼女は窓辺に歩み寄り、光に透ける自分の指先を眺める。
「金の装飾は華やかだけれど、銀は光を映して静かに輝く。冷たさよりも、柔らかさを引き出す色よ」
アスレイドは少し首を傾げ、机から顔を上げた。
「僕には、……銀は似合わないと思っていた。金の髪に、さらに冷たい色を重ねるのは」
「似合うわ」
リュエルはきっぱりと言いきる。その言葉の、静かな強さに翠色が驚いたように目を丸くする。
「あなたは金色を纏うと、どこか遠くへ行ってしまうように見える。でも銀なら、人の眼に届く。隣にいると感じられるの」
独白のような言葉が途切れたのを聞き届けると、アスレイドはふわりと微笑んでみせた。投げられた言葉を噛むように目を伏せる。
「……きみはいつも、僕に過ぎた言葉をくれるね」
「いいえ。これはただの私の願い」
リュエルは窓辺から離れ、彼の横顔を覗き込む。
「あなたがどんな光を纏おうと、私には銀が似合うと思える。それだけのこと」
アスレイドは返事をせず、しばらく沈黙した。
やがて彼は机上の端にあった羊皮紙に目を戻し、羽根ペンを取って細い文字をひとつ刻んだ。
「……銀は冷たくない。そう、信じてみよう」
リュエルは微笑み、背を向けた。
その横顔に、アスレイドはなにか言いかけて言葉を飲み込む。
窓の外の雪は、なおも銀色に光っていた。
2025年9月7日