被害者の会
セディは、その紙切れを三度読み返した。
差出人はない。
文面は簡潔で、丁寧で、腹が立つほど落ち着いている。
——あの人のことで、話がある。
——場所は以下のとおり。
——無理に来る必要はない。
「……無理に来る必要がない、って書いてある手紙ほど信用できないものはないわよね」
南の裏通り。
人通りの少ない建物の二階。
指定された扉の前で、セディは深呼吸をした。
一度、帰ろうとした。
二度、ノックしかけてやめた。
三度目で、ようやく扉を押した。
「……あの」
円卓があった。
椅子が並んでいた。
全員、女。
全員、微妙に気まずそう。
「ようこそ」
最年長らしき女性が、にこやかに言った。
「新たな被害者」
「……は?」
「座って。まずはお茶」
「砂糖は?」
「いらない……」
別の女が頷く。
「最初はみんなそう言うの」
セディは混乱した。
ここは宗教施設でもなければ、娼館でもない。
ただの集会所だ。
ただし、空気が妙に重い。
「で、あなたはどうだった?」
「え?」
「優しくされた?」
「……された」
「目を見て話された?」
「……たくさんされた」
「“君はあるだけでいい”って言われた?」
セディは黙った。
円卓の全員が、同時に深く頷いた。
「それ」
「それよ」
「完全にそれ」
「ちょっと待って」
セディは声を荒げた。
「私、別に何か言ったわけじゃ——」
「振られた」
「捨てられた」
「距離を取られた」
最年長が穏やかに訂正する。
「言い方は違っても、結果は同じ」
沈黙。
誰かが咳払いをした。
「……ちなみに」
セディは恐る恐る聞いた。
「彼、最後に何て言いました?」
全員が一斉に答えた。
「『君は悪くない』」
しばらくして、セディは笑った。
笑ってしまった。
「……最低ね」
「ええ」
「最低」
「でも忘れられない」
円卓の中央に、灰皿があった。
誰も煙草は吸わない。
それでも、灰だけが溜まっている。
セディはそこを見つめて、そっと息を吐いた。
「……入会金とか、ある?」
全員が、少しだけ明るくなった。
2025年12月20日