苦手な地巡り
焚き火の周りで、五人が休んでいた。
話題も尽きかけたころ、レヴィンが何気なく口を開く。
「……そういや、お前らそれぞれ苦手な土地ってあるか?」
「苦手ってなによ、どこでも愛があれば平気じゃない?」
「それ、思想として間違ってると思う」
「苦手。なんとなく、自分と相性が悪い土地ってことで解釈していいのかい?」
「……俺は中枢だな」
……
「いきなり核心つくなよノイン!」
「ふふ。僕は、西だね。あの記憶の湿気がどうにも苦手でね。祈りが重くなる」
「そりゃああなた、記憶されすぎる側だからでしょ」
「そう言われると否定しづらいな……」
「俺は東。意思の地とか聞くだけで胃が痛ぇ」
「東出身の俺に謝れ」
「お前が特殊なんだよ。全員がそんな頑固じゃねぇ」
「えっ、ノイン君って頑固なの?」
「……違う」
全員「(頑固だ……)」
「あたしは北が無理。あの秩序とか礼儀とか、息が詰まるわよ」
「お前が秩序を守ったら天変地異が起きる」
「じゃあ今度起こしてみよっか?」
(焚き火が一瞬、爆ぜる)
「やめておこうか。火の精霊が本気にする」
「……俺は南がだめだ。あの……暑い。あと、……甘い匂いがする」
「なんか言い方が純情ねえ」
「お前、香の匂い嗅いだだけで酔ってたもんな」
「……そういうことを言うな」
「で、ノイン。さっきの中枢が苦手っての、理由聞いてねぇぞ」
「……あそこは、祈る音がうるせぇ。全部同じ声で正しさを唱えてる。俺には、あの静けさが一番うるせえよ」
しばし、焚き火の音だけが残る。
やがてリュエルが小さく笑って、肩をすくめた。
「……結論、全員どこ行っても文句言うってことでいい?」
「うん。たぶんそれが僕たちの均衡なんだろうね」
「均衡って便利な言葉だなあ? アス」
「……要するに誰も神にはなれないって話だ」
「それでいい。うるさくねえなら十分だ」
焚き火がひとつ、ぱちりと鳴った。
誰かの笑い声が混じり、夜はようやくやわらいだ。
2025年10月19日