呼びかけの形式
灰が降っていた。
祈りの声も、風の音もなかった。
「遅かったな、アス」
「遅れたんじゃない。君が急ぎすぎたんだ、レヴィン」
ふたりの視線の先に、灰と瘴気にまみれた異形の影がゆっくりと這い出してくる。
背を向け合うように、ふたりは自然に歩幅を合わせた。
「シェルジュ! 左からもう一体来る、気をつけ──!」
……返事はない。
「おい! 聞こえてるのか!? “シェルジュ”!」
アスレイドは、ただ無言で異形の正面に立ち、ゆっくりと左腕を振り払った。
光でも刃でもない、静かな拒絶のように。
「……なあ、戦闘中くらい、返事しろよ……!」
レヴィンが呻く。
すると、淡く笑いながらアスレイドがつぶやいた。
「僕は“アスレイド”に返事をする人間なんだ、レヴィン」
「今は形式とかいいから! シェ──アスレイド! 来るぞ!」
顔を合わせていた隙をついて、振り下ろされそうだった異形の太い腕は、円刃によって断たれる。
「気づいてくれてありがとう。でも、その呼び方では返さないよ」
「お前ほんとに大人気ねえな……」
2025年7月7日