円環の刃
剣では、近すぎるんだ。
槍では、遠すぎる。
だから、僕には円の刃が丁度良かったんだ。
円刃は、投げれば離れる。
手から放した瞬間、僕の意思は切り離されて、ただ弧を描いて飛んでゆく。
裂くときも、祈りを断ち切るときも、僕の手は直接には触れない。
それが救いだった。抱きしめてしまえば、僕は神になる。
突き刺してしまえば、僕はただの処刑者だ。
距離を置いて裁くことしか、僕には許されなかった。
あの円刃は必ず戻ってくる。
投げた祈りは、すべて自分に返ってくるんだ。
赦すということは、そういうことだろう?
他人に向けた赦しの言葉は、最後には自分を裁きに来る。
切りつけた傷の痛みは、手元に戻った瞬間、僕の手をも裂く。
だから僕は、あの武器を持つしかなかった。
戻ってくる痛みから逃げられないことを、最初からわかっていたから。
君が知っているだろう。
僕は声でしか触れられない。
唇は言葉を運ぶためのもので、赦しを与えるたびに、僕はまた孤独になる。
だから、刃も同じかたちをしていなければならなかった。
遠くへ投げて、必ず戻ってきて、誰にも抱き寄せられない。
それが、僕の祈りのかたち。
剣を望んだことはない。
槍を手に取ったこともない。
僕に残されたのは、円環を描くこの武器と、円環を繰り返すこの祈りだけだった。
投げたものは必ず返る。
赦したものは必ず裁かれる。
僕はそれを忘れない。
そして、僕が手放したすべては、最後に僕の胸に突き戻ってくる。
だからこそ、僕はまだ手を離せるんだ。
君に向けて、声と同じように。
この円の刃を。
2025年9月30日