二つの孤独
外はもう風の音も止んでいた。
部屋の中二人、ベッドの上でか細く揺れるランタンの灯りを眺めている。
掛けるための布団を分け合い、肩を寄せ合う。少しごわつく布が、素肌を少しだけ刺していた。
先に口を開いたのはノインだった。
「……あんたってさ、前は何してた?」
「祈ってたよ」
「それ以外は?」
「祈るための準備」
「……ずっとそれだけか」
「うん。世界を見てたけど、自分のことは見えなかった」
ノインは小さく息を吐くと、微かに身動ぐ。
「俺は逆だな。自分のことばっか見てた。何やっても、自分の手の跡が残るのが嫌で、結局壊してた」
アスレイドは小さく頷いた。
「壊すと、静かになる?」
「最初はな。でも、すぐに音が戻ってくる。誰もいないくせに、うるさいんだよ」
「……それ、分かるよ」
ノインが視線を上げ、肩に乗るアスレイドのつむじを見つめる。
見つめられているのを実感しながら、アスレイドは灯りを見つめたまま、穏やかに続けた。
「僕の孤独は静かすぎて、耳の奥が痛かった。祈りの言葉しか響かない部屋で、それを誰に届けてるのか。分からなくなる瞬間があったよ」
「それでも祈り続けたのか」
「そうするしか、生き方を知らなかった」
窓の外から一つ、強い風が吹く音がした。
「……俺は、もう、どうやって生きてたかなんて覚えてねえな」
「君の孤独は、痛いね」
「あんたのは、冷たい」
ふたり視線を交わして、笑った。
ほんの少しだけ、灯りがまた揺れる。
「もし孤独がふたつあるなら、分け合えば少しは軽くなるかな」
「分けられるもんなのか?」
「分からない。でも、君の孤独を見てると、自分の形が分かる気がする」
「鏡みてぇなもんか」
「そうだね。どっちも割れた鏡だけど」
ノインは手を伸ばして、布団の中にあるアスレイドの掌を探した。まだ火照りの残る指先を捉えると、五指をゆっくり一本ずつ絡ませた。
「……あんたがいなきゃ、俺は今も壊してた、かもな」
「君が来なければ、僕はまだ祈ってた」
「どっちも馬鹿だな」
「うん。でも、……この方が温かい」
沈黙。
けれどその沈黙には、もう痛みはなかった。
絡んだ指先に力がこもる。
ノインがぽつりと呟く。
「……あんた、今でも一人が平気か」
「もう、平気じゃない」
「俺もだ」
ノインの掌が布団から這い出ると、アスレイドの肩をぐいと引き寄せた。倒れ込ませる動きに、アスレイドは逆らわず飲まれていく。
ランタンの灯りに照らされた同じ孤独のかたちが、再び一つに重ねられていった。
2025年10月25日