四神の昼下がり
白い、天に延びる塔の一室。境界のない窓の向こうは、淡い乳白色の世界が広がっている。
エルミナ「ねえイグレイズ、会議の議題ってまだ決まってないの?」
イグレイズ「議題は自由な意見交換と記したはずだ」
ウィルナ「自由って言われたら来ない理由がないじゃん!」
(ウィルナ、塔の窓から逆さまに登場。髪がだらりと下がっている)
オルメス「……記録しておく。ウィルナ、また壁から入室」
ウィルナ「だあってドアって退屈なんだもん」
イグレイズ「まったく……。前回の議事録がまだ終わっていない」
エルミナ「あなたのまだ終わってないは永遠じゃない?」
オルメス「永遠……定義に困る言葉だ。記録は有限だから」
ウィルナ「ほら始まったよ、記憶くんの哲学モード」
オルメス「呼び方が軽い」
エルミナ「そういえば、今朝また人間が恋の祈りを捧げてきたの。可愛かったわ〜」
ウィルナ「恋? あれって自由の反対じゃん」
イグレイズ「放っておけ。愛も秩序の一形態だ」
エルミナ「やだ、珍しく褒められた気がする!」
イグレイズ「褒めてはいない」
ウィルナ「じゃあ次の議題。最近見た面白い人間とかどう?」
エルミナ「あら、それならノインという子が可愛くて!」
イグレイズ「アスレイドもまた異端だが、観察には値する」
ウィルナ「異端って単語、褒めてる?」
イグレイズ「統計的には半分は褒め言葉だ」
オルメス「……記録しておく。褒め言葉の定義が崩壊した瞬間」
ウィルナ「ねえ、こんな会議して何か変わるの?」
イグレイズ「秩序とは、無駄を積み重ねることで成立する」
エルミナ「無駄って愛しいわよね」
オルメス「無駄は、あとで思い出……記憶になる」
ウィルナ「……結局みんな、同じこと言ってるじゃん」
(沈黙。外から、祈りの鐘が鳴る)
エルミナ「ほら、今日も誰かが祈ってるわ」
イグレイズ「我らの出番か」
ウィルナ「やあだ、もう少し喋ろうよお」
オルメス「……記録しておく。本日の合議、終了」
イグレイズ「何も決まっていないがな」
灰がひとつ、机の上に落ちた。
会話の続きを知る者は、もういない。
2025年10月19日