四神の御手にて作られし魂が、その御座に還ることを心より願う
――――アスレイド・シェルジュ・アルヴァリオ

抱く腕

宴の夜は久しぶりだった。
気のおけない面々と酒を酌み交わした深い夜、ふらつく足取りで一人二人と教堂を後にしていった。その背中を船を漕ぎながら見送ったノインは、珍しく杯を重ねすぎたのか、とうとう机に突っ伏した。
珍しいこともあるものだと、アスレイドは二人きりになった部屋で静かに声をかける。
「……ノイン君」
呼びかけても返事はない。
かすかな寝息が返ってくるばかりだった。

アスレイドは軽く息を吐くと、そっとその体に腕を差し入れる。
驚くほど軽く、温かい。
力なく揺れた黒白の髪が、腕にこぼれ落ちる。ころりと転がった寝顔は、年相応のあどけなさが残っていた。
膝の裏に差し入れた腕に力を入れ、青年の身体を抱き上げる。
いつか、抱いてきた女性達に行ったことを、こうしてノインにするとは思わなかった。
けれど今は――そうするしかなかった。

「……ノイン君を、僕が抱くなんて……滅多にないことだね」
小さな呟きは、眠る彼には届かない。

この腕はいつも、抱かれるために差し出してきた。
壊され、泣かされることでしか人間でいられなかった。
けれど今は違う。
僕が君を抱き、君を運んでいる。

その事実は、狂おしいほど甘美だった。
胸に寄りかかる重みを、髪の感触を、体温のすべてを――焼き付けようと必死に刻む。
この瞬間を、どうか失わずに済むように。

胸の奥で切なさと歓喜がせめぎ合い、頬に熱が昇る。
足取りは揺らがず、静かに寝台まで向かっていった。
毛布をかけてやり、長い髪を指で梳く。
眠る横顔は、どこまでも無防備で、人間らしかった。

「……おやすみ、ノイン君」

声に応える者はいない。
けれどこの夜の記憶は、狂おしいほどに胸の奥で燃え続けていた。

2025年9月21日