初めての食事
「これは……君が?」
「ああ。文句あんなら、黙って食え」
「文句と黙るは、同時にはできないんだけど……ふふ。いただくよ」
(スプーンが器に触れる音、ひと口。間を置いて)
「──あたたかいね」
「……まずいのか」
「ううん。あたたかいって、ちゃんと感じた。それは君の手からしか、出てこない温度だ」
「手間かけたってほどじゃねえよ。適当に煮て、味見して……」
「その味見という行為に、君がひどく躊躇った顔をしていたのを、僕は見ていたけれど」
「……」
「罪のない鍋にまで、赦される資格を問うような目だったよ」
「うっせえな。誰のせいでそうなったと思ってんだ」
「僕?」
「違う。俺自身。──俺が、何にも知らなかっただけだ」
(沈黙。スプーンの音が再び鳴る)
「でも、おいしい。心が、やっと口の中に降りてきた感じがする」
「……なんだその言い方」
「君は、味を知らない人じゃない。味を、口まで運ぶ勇気がなかっただけだ。だから……ありがとう、ノイン君」
「礼を言うなら、全部食ってからにしろ」
「うん、そうするよ。これは、きっと君が初めて自分の意思で選んだ味だから──残せない」
2025年6月24日