2025-09

かつての光_交わる前に紡いだ記憶

円環の刃

剣では、近すぎるんだ。槍では、遠すぎる。だから、僕には円の刃が丁度良かったんだ。円刃は、投げれば離れる。手から放した瞬間、僕の意思は切り離されて、ただ弧を描いて飛んでゆく。裂くときも、祈りを断ち切るときも、僕の手は直接には触れない。それが救...
淫祈抄

独占欲

昼のあんたは、誰から見ても立派に見えるんだろう。真っすぐに背を伸ばして、落ち着いた声で人に言葉を与えてる。仕草一つとってみても、洗練されてるって言うのか。荒っぽくねえんだよな。神様じゃなく、あんたの声が聞きたくて教堂に来るってやつも何人も知...
外伝

外伝1 赦しの残光

テーブルの上には、まだ縁が乾ききっていない木のカップがいくつも並んでいる。レヴィンは、中枢の一番好きなところは、ネルガルド中の酒が集まることだと笑う。香りや色の異なる美酒は、見ているだけで楽しめるけれど流石に胸の奥が重たくなってきた。ノイン...
影の祈り_語られない記録

レヴィンの独白

ノインを見ていると、どうしても弟の顔がちらつく。あいつの、あの真っすぐな目。黙っていても伝わる頑なさ。剣を握る姿勢まで、妙に重なる。……忘れるはずだったのにな。俺があの日、自分の手で祓ったんだ。俺がやるしかなかったんだ。そう言い聞かせて、黒...
影の祈り_語られない記録

抱く腕

宴の夜は久しぶりだった。気のおけない面々と酒を酌み交わした深い夜、ふらつく足取りで一人二人と教堂を後にしていった。その背中を船を漕ぎながら見送ったノインは、珍しく杯を重ねすぎたのか、とうとう机に突っ伏した。珍しいこともあるものだと、アスレイ...
本編

第十五話

夜の気配は、跡形もなく溶けていた。祈りの余熱も、裂け目を繕う糸も、静けさの中に沈んで残っていた。 静かに差し込む光が、床に長い帯を落としている。 寝台の上でアスレイドは、まだ浅い眠りに沈んでいるノインの横顔を見ていた。 薄い睫毛の影が頬に落...
影の祈り_語られない記録

地獄へようこそ

「……女、抱いたことあんのか」不意にそう訊かれて、アスレイドは目を細める。「……どうして?」「気になった。そんだけ」ノインの声は平坦だった。だけどその指先は、どこか落ち着きなく、衣の端をいじっている。アスレイドは少し黙ってから、静かに口を開...
かつての光_交わる前に紡いだ記憶

夜明け前

夜が明けかけていた。紅い寝台の上、女は涙を流したまま眠っている。声を枯らし、身を痙攣させて、最後には僕の腕に崩れ落ちた。その顔を見下ろしながら、僕は静かに微笑んだ。「……綺麗だな」泣き声は確かに光だった。声を引き出すたびに、彼女は生きている...
本編

第十四話

隣で眠る男の掌に、自分の掌を重ねる。 指の隙間に一本ずつ挟み込み、ゆるりと曲げる。握り返されることはなく、ただ規則正しく上下する胸元を背中から見つめていた。 眠る男の掌に、まだ体温が残っている。触れているのに、まだ届かない気がしていた。その...
本編

第十三話

アスレイドの傷の治りは順調とは言えず、取り替えた包帯はすぐに赤く染まった。薬草を摘みに出ようとしても、彼の手に手首を掴まれれば、ノインはそれ以上何も言えなくなる。翠の瞳が行かないでくれと訴えるからだ。そんな瞳の色を向けられては、ノインは渋々...
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