2025-08

本編

第十一話

中枢に戻ってきてからというもの、気の抜けた毎日を過ごしている。 アスレイドとのことは、祈りが届いていなかったことが明らかになった後でも、特段変わりがない。求められるがままに、身体を差し出し、享楽の時間を過ごす。壊せば届くと思っていたのに。そ...
影の祈り_語られない記録

祈る

祈りは、君を縛る。君の瞳は確かに僕だけを映していた。けれど、それは僕に向けられたものではなかった。僕の奥に沈むものを見つめながら、君はただ、壊すことに祈っていた。……それが分かってしまった瞬間、胸の奥が昏く濁った。君が他の誰かを見ていないこ...
本編

第十話

足を踏み入れた時から、薄い靄で視界が霞む。まだ太陽は空の高い位置にあるはずなのに、時間が止まった朝霧の中にいるかのようだった。霞が、何かを剥がすように身体にまとわりつく。   東の森より更に高い木々は、まるで檻のように高くそびえ立っていた。...
本編

第九話

いつのまにか靴底に感じる感触は、草を踏む柔らかいものではなく、ごつごつとした石に変わっていた。 目の前に広がる雄々しき山脈は、灰色の岩肌で圧倒的な大きさをもって下界を見下ろしている。まるで、最も神に近い場所に在るという誉れを誇示しているよう...
影の祈り_語られない記録

南の夜、待つ者

灯りは、まだ油を食っている。寝台の脇に置いた灯台皿の炎が、壁を揺らしては戻す。さっきまでの女の嬌声も、体温も、もう残っていない。肌に触れられた唇の場所だけが、かすかに冷えている。この地の甘い香の残滓が、服の襟にこびりついて離れない。片肘をつ...
本編

第八話

吹き抜けるような風は少しも湿り気を帯びていない。まるで、そんな感傷は荷物になるだけだと、この地で吹くウィルナの吐息はいつでも軽く身体を押してくる。 音もなく揺れる、膝下の高さの青々とした草原を、会話もそこそこに歩く。東の民は、道を作らない。...