2025-06

本編

第三話

留守番を頼んだよ、と白い外套をまとって振り向いた笑顔は、あれほどの痴態をさらした者のものとはとても思えない。ノインはアスレイドの顔を真っすぐ見ることができず、袖の刺繍に視線を投げながらああと短く返した。木製の扉が閉まれば、この聖堂の中一人き...
かつての光_交わる前に紡いだ記憶

モノクル

朝。テーブルの上に、丸い金具がひとつ置かれていた。アスレイドのモノクルだった。置き忘れたのか、意図的なのかは分からない。手に取って、右目にあててみる。見える景色は――何一つ変わらなかった。度が強いのかと思っていたけれど、そこにあるのは、ただ...
影の祈り_語られない記録

名のない祈り

霧が薄くなる時間だった。アスレイドは祈りを終えたあと、少しだけこちらを向いて微笑んだ。「最近、一緒に住んでいる人がいるんだ」そう言って、空を見上げたまま、「ノイン君と言ってね――少し不器用だけど、とても正直な子で。……僕が壊れないと思ってい...
本編

第二話

東の国にいた時は、日の光が地の果てから昇るところまで落ちるところまで、はっきり見えた。 空から水滴が滴る日も、この瞳と同じ色の空が広がる日も。いつも、草色の絨毯が地面いっぱいに広がっていた。 草の民は、意思を尊重する。四神の一柱、女神ウィル...
本編

第一話

四神の御手にて作られし魂が、その御座に還ることを心より願う                ――――アスレイド・シェルジュ・アルヴァリオ 六つの柱に支えられた空間の中、俺は顔を上げることができないでいた。告解台より高いところで、複数の人が時折...
影の祈り_語られない記録

草の民の料理

「……これは、なんという料理名かな」「名前なんかねえよ。芋と獣肉と、塩。火にかけりゃ、こうなる」「なるほど。理に適っているね」「文句あんなら食わなくていいぞ」「ノイン君、僕が文句を言う顔と覚悟を決めた顔を取り違えるのは、そろそろやめてくれな...
影の祈り_語られない記録

初めての食事

「これは……君が?」「ああ。文句あんなら、黙って食え」「文句と黙るは、同時にはできないんだけど……ふふ。いただくよ」(スプーンが器に触れる音、ひと口。間を置いて)「──あたたかいね」「……まずいのか」「ううん。あたたかいって、ちゃんと感じた...
影の祈り_語られない記録

第一印象

「あんた、最初に俺を見たとき、どう思った?」「……問いの形がすでに、優しさを隠しているね。ノイン君」「答えろよ」「なら、正直に言うと──祈りの輪郭を壊しに来た者だと思ったよ」「……随分、好意的な解釈じゃねぇか」「うん。けれど、救いではないと...